『神無山』と呼ばれる場所がある。

生者の世界と、死して肉体から離れた魂が集う世界とを繋ぐ場所に。

そこには『神無ノ鳥』と呼ばれる者たちがいて

終焉を迎える魂たちを肉体から引き離し

死者の世界へと連れ行く役割を担っている。

ある時は、生に絶望し自ら生命を絶った者を。

またある時は、病に臥して看取る者もないままに生を閉じる者を。

家族に見守られ、安らかに彼岸へ旅立つ者を。


老いも若きも皆一様に背負っている、避けられぬ運命の瞬間。

『死』という運命を人間にもたらすためだけに、彼らは存在している。


けれど

自らに与えられた運命をよしとせず、

人の魂をその手に掴むことを忌み嫌う少年がいた。

彼は今まで一度として、人の魂を回収したことがない。

白き翼をはためかせる魂を、その手に掴んだことさえない。

人の死を見届ける彼の眼に映るのは、恐怖。畏怖。不快感。

そして頭を過ぎる、微かな記憶だけ。

けれど、心の内に留まる『それ』が

イカルに人の魂を回収させないのだということは分かっていた。




そして、ある日。

イカルは『神無山』の奥深くにある『常闇の間』へと呼び出される。

纏わりつく不快な瘴気の感触と、

一寸先すらも見えない闇の中でイカルが聞いた言葉は。

『一月後の、六月一日に死亡する少年の魂を回収せよ』

『回収対象の名は、綿貫 琉宇――』

事実上の最後通告だった。


魂を回収出来ない『神無ノ鳥』には、存在理由が無い。

出来なければ、消される。

『神無山』に、居場所は無くなってしまう。

…命令拒否は、出来なかった。


地上に降りたイカルは、琉宇という名の少年と邂逅を果たす。

人を拒む少年と、彼を優しく見守る叔父と。

彼らと触れ合う日々を通し、イカルが学ぶもの、知る事は何なのか…


今、物語が幕を開ける……。