世界中を焦土と化した、未曾有の大戦が終わってから、数年後の春。

穂積 尚治朗は、生まれ故郷へ向かう汽車に乗っていた。

車窓の外に広がる乳白色で構成された世界をしばし見つめた後、

彼は旅行鞄を開け、封筒を取り出した。

手紙には、こう記されている。


『突然のお手紙、失礼致します。

 御存知無いかも知れませんが、私は貴殿の実の父親である

 穂積 善造【ほづみ ぜんぞう】と申します。

 当方、重病により余命幾ばくも有りません。

 命がある内に、私の財産を貴殿に譲り渡したく思います───』


初めて聞かされた事実。

顔を見た事すら無い実父。

心の奥底に眠る、朧な記憶。

様々な思いを抱きながら、尚治朗は生まれ故郷の洋館へ向かう。


錆びかけた鉄門を入った所で、長い黒髪を風になびかせながら、

一人の少女が声を掛けてきた。

「…尚治朗兄様」

彼女は尚治朗を、そう呼んだ。

不思議そうな表情をする尚治朗を見下ろし、彼女は失望の表情を浮かべる。

「あたしは、兄様の事忘れた事なんて無かったのに…」と。


しばらく穂積邸に滞在する事になった主人公の身の回りで、立て続けに怪事件が起こり始める。

ある時は「ここから出て行け」という血塗られた脅迫文が。

またある時は、怪我を負わせる事を目的とした卑劣な罠が。

尚治朗の命を狙う、悪意に満ちた凶弾が。


犯人の目的は、一体何なのか。

そして、尚治朗が穂積邸に招かれた真の理由とは?

今、物語が幕を開ける───